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公演後記「silence」のこと

ソロ公演「silence」へのご来場、またお祝いメッセージなどありがとうございました!
3回無事に終えて、気がついたら数日経っていました。
読んでいただけたら幸いです。

 


「silence」のこと

春終わりくらいに何かが沸々と湧き始めて、そこから「生活」と同時に進行する何か。
表・裏・種、、来年でも5年後でもいいから気長に進めようという思いから、「今逃したら実現しないかも」に変わり秋に開催決定。計算のできないタイミングって面白いですよね。

silenceの要となる「音」を出す人として選ばれてしまったのは、今年6月に初共演した山㟁直人(Naoto Yamagishi)さん。音の出し方と呼吸、あと引き際のバランスが絶妙で皆さんがリスペクトするのが納得。彼は最初に出演の依頼をした時から最後まで、作品の一部として居ることを楽しんで参加してくれた。
良い機会なので山㟁くんの音についてもう少し触れようと思う。音を出す時に出てくる「間」はおそらく「誰にも入れない領域」なのではと感じる。厳密に言うと音を出すほんの少し前の一瞬みたいな猛烈にヤバい時間。ミュージシャン、ダンサーに限らず人間はそれぞれに呼吸の間が様々だし、同じ譜面、楽器、振付でもプレイヤーによって全く違うものに見えたりする事は当然ある。
でも、山㟁くんの領域はそういう類ではないと強く信じている。理由はとてもシンプルで小難しい話ではないが、センスの話かも。
作品を進めていく上で彼もコンセプトを楽しんでくれた事、また、作品の落としどころを探っていく上で(音が)後押ししてくれた事が、枠組みだけだった構成をより緻密にして少しずつ隙間が埋まっていったように思う。

ムリウイのたけしさんは、私の「水をぶちまけてもよろしいでしょうか?」要求に「…詳しく聞かせてください」と大人対応。最終的には全て叶えてくれました。
今回のテーマとなっている「種の表裏」。ムリウイは扉や窓を境界に、外と内の世界が楽しめる空間で、更に外から室内を・中から外の世界も味わえる場所。ムリウイでは「窓」というタイトルで定期イベントを開催している。実際に見ると、ムリウイの窓は外から見ても室内から見ても特別な存在に感じられる。
この窓を「音の消える場所」にしたい、と決めた。

半ば滞在制作に近い状態で、現場で決めた事も多くある。ここからがやっとダンサーとしての作業だよ。インプロの時のように思うままに自由に踊る事はこの作品が消えてしまう。規制とルールを決めて、ただ従うのみ。しんどー

本番で踊る振りはもちろん決めたが、それ以外に決め事(ノイズ研究所と呼んでいる)を作ってやめて、また別の決め事を作って、良い物は残す。そしたらちょっとしか残らなかった、、!けど仕方ない、残らなかったのだから。だけど、ムーブメントとして残らなかっただけで、身体には記憶のデータとして残っているからね。ノイズ研究所では、目を足元に移動させたり、お尻をお臍に変換して体の内側と外側のちょっとした小旅行。そこから、キモいけど幽体離脱して自分を見つめる。

作品の話から少しそれるが、近年、改めて感じる事がある。
【目立つのが超苦手!】致命的ですね。
だから 【活動が矛盾してる】んです。人前で踊るなんて本当に恥ずかしい。
ソロ公演本番でも、なんで全員こっち見てるんだろう?と不思議でならなかった。いや、当然の事なのに!…ツラい。あんまり見ないでくださいとも言えないし。人の身体を観察したり、創っていく作業は好きで相手とコミュニケーションをはかるにはダンスはとても便利。でも正直、ダンサーには向いてないと思っている。

 

そんなこんなで本番当日「簡単な照明オペ」として入ってくれた三橋俊平くん(ダンサー・大人少年主宰)は、integrated dance company響-KYOで共に踊っていた事もあり、呼吸合わせてくるよね〜。照明オペだけでなく、実際は進行や力仕事などなど私の希望に沿ってタイミング良く力を貸してくれた。お客さんの中には照明が良かったという声が多く、彼はきっと今頃ドヤ顔だろうな。
「silence」のイメージぴったりのチラシ撮影・デザインをしてくれたのはGO(go-photograph)さん。丁寧で細やかなGOさんの性質が、チラシにもよく表れている。 ここ最近よく撮影してくれるTom Yossiさん(m.yoshihisa)は、ムリウイの常連さんという事もあり、撮るアングルも変えつつ撮影を楽しんでくれた。(いつもありがとう!)

普段はスタジオ運営や家の事、カンパニーやイベント出演などを言い訳に、中々じっくり作品と向き合い創作する時間がなかった。振り返ると、ほぼ制作的作業に時間を削ったことになるが、感覚と精神を澄ますエネルギーを感じつつ、同時に脳内の整理整頓ができて(しんどいが)効率は良い気がする。
種が発芽する為にどこかに向かうような必然、感情ではなくそこまで泳いで辿り着かないと死しかないような状態。本番中はその状態と生まれたものを時間の経過と共に体感していただいたと思っています。
夜な夜なひとり稽古をしていて温めていた粒々が、ムリウイの陽が当たるテラスでセロトニンを高めてぐんぐん育っていったみたいな。

 

「silence」は、来年1月に女性4人の作品に形を変えて発表します。
【MERGE vol.5】
1月26〜27日 アーツ千代田3331
(プロデュース/ 久住亜里沙)
「silence」
構成.振付/ 細川麻実子
映像/ ヒグマ春夫
出演/ 後藤かおり、増田明日未、江藤裕里亜、細川麻実子

どうぞお楽しみに。

 

◯当日パンフレット (抜粋)
『ダンスが「表現」の枠の中で蠢いている時、持て余した身体を残念に感じます。silenceは今までなかなか出来なかった、自分自身を、あるいは人を動かす為の振付としての作品です。ダンスなのか音楽なのか不明ですが、自由を消除し身体が生き生きとする景色を表・裏からお楽しみください。』

 

大きな収穫は、初めてダンスを観た人に「初めてがこれで良かった」とコメントをいただけた事。(尊い)

関わった全ての皆さんに感謝します。
細川麻実子